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FAQ 採用

2023.01.06
  • 採用

試用期間を延長することはできますか。

企業が労働者を雇い入れるとき、入社後一定の期間を試用期間として設けていることが多くあります。この試用期間は、当該労働者の職業能力や適格性などを把握し、本採用するか否かを判断することを目的として制度化していることが多いでしょう。多くの場合、就業規則等において定められていることと思います。

試用期間の法的性質については、学説上いくつかの法的構成が提唱されていますが、その点は学術書に委ねるとしまして、昭和48年12月12日の最高裁判例に注目したいと思います。同判例は、企業が大学卒業者を管理職要員として新規採用するに当たり設けた試用期間につき、解約権留保付雇用契約であると判断しており、長期雇用システム下の通常の試用は解約権留保付労働契約として構成するという考え方を確立したものであるとされています。また、使用者は、試用期間中の労働者に対し、留保した解約権を通常の解雇よりも広い範囲で行使することが可能であるが、その行使は、解約権留保の趣旨・目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し、社会通念上相当として是認される得る場合にのみ許されていると判示しています。

しかし、試用期間を定める合意の内容は、実際には多様なため試用期間であることのみをもって一律にその法的性質を決めることはできません。前掲の判例も、①就業規則の規定の文言、②当該企業内において試用契約の下に雇用された者に対する処遇の実情、特に本採用との関係における取扱いについての事実上の慣行を重視すべき要素として挙げ、a)就業規則である見習試用取扱規則の各規定、b)大学卒業の新規採用者の試用期間終了後に本採用しなかった事例はかつてなく、雇入れについて別段契約書の作成をすることもなく、ただ、本採用に当たり当人の氏名、職名、配属部署を記載した辞令を交付するにとどめていたこと等の過去における慣行的実態をもとに、解約権留保付雇用契約であると判断した原審の判断を是認しています。

いずれにしましても、多くの企業では、試用期間中の従業員も他の一般従業員と同じ職場に配置されて同じ職務に従事し、企業側の取扱いにも何ら変わりなく、就業規則に試用期間終了時に行われる本採用契約のための手続きを定めていても実際にはそのような手続きを経ることなく本採用に至っている等といった実態があるようです。そのため、試用期間中の本採用拒否ということも問題となり得るところです。

さて、本問における試用期間の延長の可否についてですが、試用期間というのは法令に特段の定めがあるわけではありませんから、当該期間の延長についても、原則的には当事者間の合意によることになります。しかし、試用期間の性質に鑑みれば、それを無制限に延長することは労働者の地位を長期間不安定な立場に置くことになりかねません。

この点について大阪高判昭和45年7月10日の裁判例では次のように判示しています。すなわち、会社の試用規則において、元来試用の期間は1年であるが、「会社が必要と認めた場合、または特に理由がある場合」は延長することができる旨の定め(試用規則4条ただし書)がある場合において、「会社は、試用期間が満了した者については、これを不適格と認められる場合のほかは原則として社員に登用しなければならない義務あるものと解せられ、従って前記試用規則4条但書の試用の期間の延長規定は右原則に対する唯一の例外であるから、その適用は、これを首肯できるだけの合理的な事由のある場合でなければならない。」として、「いかなる場合に右合理的理由があるかを本件で問題になっている勤務成績を理由とする場合に即して考えれば、試用期間が基本的には社員としての適格性の選考の期間であること(試用規則2条)の性質上、その期間の終了時において、(A)既に社員として不適格と認められるけれども、なお本人の爾後の態度(反省)如何によっては、登用してもよいとして即時不採用とせず、試用の状態を続けていくとき、(B)即時不適格と断定して企業から排除することはできないけれども、他方適格性に疑問があって、本採用して企業内に抱え込むことがためらわれる相当な事由が認められるためなお、選考の期間を必要とするとき(その場合、会社は延長期間中についに不適格と断定できないときは、結局社員登用しなければならないであろう。その期間、再延長の可否についてはなお問題があるが、しばらく措く。)が考えられる。右(A)の場合は労働者に対し恩恵的に働くのであるから、その合理性は明らかであるが、(B)の場合もこれを不当とすべき理由はない。」としています。

以上を踏まえると、試用期間の延長はあくまで例外であり、使用者の一方的、恣意的判断に委ねることは許されず、就業規則上の根拠のみならず、試用契約を締結した際に予見し得なかったような事情により適格性等の判断が適正になし得ないという場合のように、延長を必要とする合理的事由があることが必要であると解されることになるでしょう。もっとも、この試用期間法理は長期雇用システムにおける新規学卒者の採用後の試用期間について形成されたものである点には留意が必要です。例えば、中途(経験者)採用者の本採用拒否については、新卒者の場合よりも、能力や適格性の有無が厳しく審査され、通常の解雇よりも緩やかな基準で解雇の有効性が判断される傾向にあるようです(東京地判平13.12.25、東京高判平28.8.3)。

ところで、試用期間の長さについては、3ヵ月が最も多く、1~6カ月にわたるのが大多数とされていますが、特段の制限があるわけではありません。しかし、合理的な理由もなくあまりにも長期にわたって試用期間を設けることは公序良俗違反とされる可能性がありますので注意すべきでしょう。

なお、就業規則上の根拠がなくても、労働者との間で個別に合意があれば試用期間を延長できるという見解もありますが、これについては、労基法第93条(就業規則と労働契約の関係)により、その合意が無効とされる場合がありますので留意が必要です。

【参考資料】

菅野和夫『労働法(第12版)』(弘文堂,2019)237頁~244頁

白石哲編著『労働関係訴訟の実務〔第2版〕』(商事法務,2018)438頁~453頁

労働契約の成立に関する実態について(厚生労働省のHP)

https://www.mhlw.go.jp/shingi/2005/05/s0519-6f.html#2-1

※回答内容は、掲載日時点の法令・通達等に基づいたものです。

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