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FAQ 採用

2023.04.06
  • 採用

試用期間中に本採用を拒否する場合に留意すべき点にはどのようなことがありますか。

試用期間中の法的性質について、解約権留保付雇用契約であると判断した最高裁判例については「Q. 試用期間を延長することはできますか。」でも触れましたが、この留保された解約権はどのような場合に行使できるのかという点は問題となり得ます。この点について判例(最大判昭48.12.12民集27巻11号1536頁)は、試用期間中の解約権留保を、採用決定の当初にはその者の資質・性格・能力などの適格性の有無に関連する事項につき資料を十分に収集することができないため、「後日における調査や観察に基づく最終的決定を留保する趣旨でされるもの」と把握しています。加えて、このような留保解約権に基づく解雇は通常の解雇よりも広い範囲において解雇の自由が認められてしかるべきであるとしたうえで、しかし、留保解約権の行使も、解約権留保の趣旨・目的に照らして、客観的に合理的な理由が存在し、社会通念上相当として是認されうる場合にのみ許されると判示しました。そして、留保解約権行使が是認されうる場合をより詳細に「企業者が、採用決定後における調査の結果により、または試用中の勤務状態等により、当初知ることができず、また知ることが期待できないような事実を知るに至った場合において、そのような事実に照らしその者を引き続き当該企業に雇傭しておくのが適当でないと判断することが、上記解約権留保の趣旨、目的に徴して、客観的に相当であると認められる場合」としています。

重要な点は、試用期間中の従業員の本採用拒否については、通常の解雇の場合に比べて、広い範囲における解雇の自由が認められてしかるべきものであるとする一方で、解約権留保の趣旨・目的に照らして、客観的に合理的な理由が存在し、社会通念上相当として是認されうる場合にのみ許されるとしている点です。つまり、会社側は、当該従業員の適格性欠如の判断の具体的な根拠(勤務生成・態度の不良など)を示す必要があり、また、その判断の妥当性が客観的に判断されることになるわけです。しかし、この判断は、通常の解雇よりも広い範囲において解雇が認められるとの前提でなされることになります。もっとも、どの程度であれば認められるのかについては裁判例においても明確な基準があるわけではないことから、実務上は普通解雇に相当する準備(繰り返しの注意・指導、問題行動に関し客観的に証明できる記録の確保等)は必要とされるところでしょう。

本判例のような新卒者の本採用拒否の裁判例は、このほか次のようなものがあります。

例えば、従業員側が、試用期間中に技術社員としての資質や能力などの適格性について問題があるとして解雇されたため、本件解雇は解雇権の濫用に当たり無効であるとして、労働契約上の地位確認等を求めたところ、当該従業員は、再三の指導による改善の程度が期待を下回るだけでなく、研修姿勢についても疑問を抱かせるものであって、今後指導を継続しても、能力を飛躍的に向上させ、技術社員として必要な程度の能力を身につける見込みも立たなかったと評価されてもやむを得ない状態にあったなどとして、会社が留保解約権を行使して解雇したことにつき相当性を認めた上、改善の努力をするために必要な機会も十分与えられていたから、会社が解雇回避の努力を怠っていたとはいえないなどとして、解雇を有効とした事例(大阪高判平24.2.10)です。また、作業上のミス(宛名の二社併記など通常では考えられないもの、ミスを指摘して訂正させたにもかかわらず訂正後さらに誤りがあるもの、被告に重大な損害を発生させるおそれがあるものなど態様の重いものが相当数含まれていたもの)が多いため試用期間を延長したものの、その後もミスが多発したことからなされた新卒採用者に対する試用期間満了時の解雇が、従業員としての適格性の欠如という解雇事由に該当するとして有効とされた事例(東京地判平13.7.2)などがあります。

一方、中途採用者の本採用拒否の裁判例については、次のようなものがあります。

例えば、緊急の業務指示に速やかに応じない態度をとったこと、採用面接時にはパソコン使用に精通している旨述べたにもかかわらず、満足に使用できなかったこと、代表取締役の業務上の指示に応じなかったこと等を理由とする試用期間中の労働者の解雇につき、会社の期待に沿う業務を実行する可能性を見出し難く、解雇には客観的に合理的理由があるとして有効とした事例(東京地判平13.12.25)です。また、金融機関での職歴の有無について履歴書に虚偽の記載をして採用された労働者の本採用拒否が問題となり、当該労働者は採否決定の重要な要素に関して虚偽の申告をしたものであり、労使の信頼関係は破綻したとして解雇を有効とした事例(東京地判平21.8.31)などがあります。

そのほか、試用期間中の解雇の場合については、試用期間は、労働者の資質、性格、能力等を十分に把握し、従業員としての適性を吟味するための期間であるから、試用期間の途中で労働者を解雇する場合には、試用期間満了後の解雇の場合よりも高度な合理性・相当性が求められるとしたものもあり、裁判例としては、次のようなものがあります。

例えば、解雇を無効とした例として、原告の業務上のミスないし不手際は見過ごせないものではあるが、指導の結果、業務態度等には相応の改善が見られており、試用期間を満了するころには被告の要求する常勤事務職員の水準にまで達する可能性があったのに、その前に適正欠如を理由として解雇を選択することは解雇すべき時期の選択を誤ったものであるとして解雇を無効とした事例(東京地判平21.10.15)があります。 他方、解雇を有効とした例として、原告には上司の指導や指示に従わず、また上司の了解を得ることなく独断で行動に出るなど、協調性に欠ける点や、配慮を欠いた言動により取引先や同僚を困惑させることなどの問題点が認められ、それを改めるべく被告代表者が指導するも、その直後に再度上司の指示に素直に従わないといった行動に出ていることに加え、上記問題点に対する原告の認識が不十分で改善の見込みが乏しいと認められることなどを踏まえると、試用期間途中において、被告が、「技能、資質、勤務態度(成績)若しくは健康状態等が劣り継続して雇用することが困難である」と判断して、原告を解雇したことはやむを得ないと認められ、本件解雇には、解約権留保の趣旨・目的に照らして、客観的に合理的理由があり、社会通念上も相当というべきとされた事例(東京地判平28.9.21)などがあります。

【参考資料】
菅野和夫『労働法(第12版)』(弘文堂,2019)239頁~240頁

※回答内容は、掲載日時点の法令・通達等に基づいたものです。

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